にとりの日記 <見ちゃダメだよ!勝手に見たらぎったんぎったんにするよ!> ○月○日  今日はとんでもないモノを拾ってしまった。人間の男だ。 私の家の近くにうつ伏せで倒れていたのを見かけたので家に運んだ。 衣服を見るに、普通の人間ではない気がする。徳のある人間なのだろうか? 一瞬死んでいるのかと思ったけど息はあるみたい。 とにかく人間は河童の盟友なので世話をしてやる。恥ずかしがってもいられない。 怪我などはしていなかったが気を失っていたので布団を敷いて寝かせてやった。 私もなかなか大変なものを拾ってしまったものである。  それはそうと、この外界から入ってきた機械の修理が終わらない。 ものすごく複雑な構造をしている。どちらが上なのだろうか? そもそも何に使うものかわからない。困ったものだ。 悩んでも解決しなかったので、今日は作業もそこそこに、きゅうりを食べて寝るとする。 ○月×日  拾ってきた人間が目を覚ます。なんと彼は外の世界の人間だと言う。 私はとても驚いた。彼は里の人間とは似ているようでどこか変わった喋り方で私に礼を言った。 ここが幻想郷という世界であることを説明すると、彼も私と同じように驚いていた。 どうやって来たか、何が原因なのか、まるで見当がつかないらしい。 しかたがないのでしばらく世話をしてやることを約束する。 彼は「夢の中にいるみたい」とか何とか言いながら喜んでいた。 もし私が神隠しなんかされたら、そんなのんきな事は言ってられないのに・・・ 外の人間は変わり者なんだということにしておく。  人間に構っていたら機械の事をすっかり忘れていた。 そもそも人間の世話で機械を弄る余裕が無かった。放置しておく。  追記。彼の名前は○○というらしい。 初めて会った人には名前くらい聞いておかないと。 普段人を避けて生活してるから、そんなことにも気がつかないんだ。反省。 ○月□日  ○○は本当にのんきな奴で、私の家にある本を読んだり、機械を見たり、 昼寝をしたり、どうして自分がこの世界に来たのかということに頭を悩ませたりしている。  ○○が私をまたも驚かせる。なんと今修理している機械を「見たことがある」というのだ。 この機械は「ぴーえすぴー」といい、遊んだり映像を見たり音楽を聴いたりすることができる優れものだと言う。 その他にも、電気が無いと動かないだとか、他にも部品が必要だとか、色々なことを教えてくれた。 ○○は、まさか機械技師か何かなのだろうか?と思って聞いてみたが、やんわりと否定される。 だが、その後に○○が発する「このくらい向こうの人間なら誰でも知ってる」という発言はさらに私を興奮させた。 すごい。外の人間すごい。  その他にも○○はいろんな機械の事を私に教えてくれる。私にとっては物凄く楽しい時間だった。 私は食い入るようにして○○の話を聞いてしまった。目も輝いていたと思う。 「ぱそこん」だの「けーたい」だの、外の世界のものは名前が覚えづらい。 やはり○○は機械技師なんじゃないかとにらんでいる。 香霖堂という外の世界のモノを扱う店があると教えたところ、○○が興味を持ったので、 今度一緒に行く約束をした。 そういえば、・・・これは○○から聞いたのではないが 男女が仲良く遊びに行くことを「でーと」と言う、と聞いたことがある。 なんだか恥ずかしいので忘れることにする。 ○月△日  ○○もきゅうりが好きだと知った。そもそも向こうの世界にもきゅうりがあったんだ、なんだか嬉しい。 というわけで夕食にとことんきゅうりを出してやった。今日は「きゅうりときゅうりの和え物」。 やはりきゅうりはおいしい。  私と○○はやはりどこかウマが合うんだろうか、結構好みが似ているみたい。 最近は機械弄りとかもほっといて○○とばっかり話している。 嫌な顔せず私に付き合ってくれる○○は本当にいい人間だ。 やはり人間は河童の盟友なんだなと再認識した。  最近、この日記が○○の事ばかりで埋まっている。 そもそも外の人間を拾うなんてことが非日常的だというのもあるけど なんだか生活の一部に○○が組み込まれてしまっているような気さえする。 ・・・元々は自分が発明したり修理した機械の事を記すための日記だった気がするんだけどなあ 細かいことを気にするくらいなら新しい機械のひとつでも弄ればいいのに。と思った。 ○月☆日  最近は私が朝に起きて、そしてから少し離れた布団で寝ている○○を起こしてやる、というのが定番になってしまった。 ずっと一人で過ごしてきたのでこんなことでも新鮮な感じがする。 ○○が「なんだか新婚さんみたいだね」と言った。特に意味は無かったんだと思うが、 どうしてもその言葉が私の頭に残ってしまっている。どうしてだろう。  かねてから約束していたので香霖堂へ連れて行った。 移動する時にいつも使っている光学迷彩スーツを使おうと思ったが、私一人分しかなかったので 諦めて使わずに○○と歩いて香霖堂へと向かった。 (途中、厄神に冷やかされたがあえて無視。) こうやってみると本当に「でーと」みたいだ・・・。なんだか落ち着かなかった。 当の○○はというと、道具について店主と話したり、うわさを聞きつけた天狗のインタビューに答えたりしていた。 なんだか私が○○に置いてけぼりにされている気がして、話もそこそこに○○を連れ帰ってきてしまった。 ○○が少し寂しそうにしていた。悪かった気もする。  追記。日付が変わるか変わらないかあたりに博麗の巫女が私を訪ねてきた。 天狗に話を聞いて、○○を外の世界に戻すために○○に会いに来たらしい。 隙間妖怪にも話をつけるつもりなので、まず○○と話がしたいと言った。 私は○○が居なくなるのかと思うと急に怖くなった。 一緒に生活するようになったのも急だったが、不思議なことに○○は今では大切な存在になっている。 このまま二度と会えなくなるのもとても嫌だったので、巫女には夜遅いだのなんだの、適当な理由をつけて帰ってもらった。 もう巫女とは会わない。忘れる事にする。 ○○はこっちの世界に住む気はないのだろうか? ○月※日  天狗の新聞が家に三部も届く。昨日○○が話していた事をすぐさま新聞に書いたみたいだ。 この天狗の新聞はいつでも「号外」と書いてる気がする。胡散臭い。 秘密にしていた訳ではないが、なんだか○○がみんなに知られたと思うと快くは思えない。 ○○が楽しそうに新聞を読んでいたのでよしとする。  話の流れを折らないよう、○○に幻想郷に住む気はないのかと聞いてみた。 ○○は笑いながら「ここ以外に移る気は無い」と答えた。 もしかして、それはこれからも私と一緒に暮らしてくれるということだろうか? だとしたら嬉しい。とても嬉しい。盟友を超えた関係を築けるのだ。 ○○の前で顔が赤くなってなかったかが心配である。 夕食にはたくさんきゅうりを出してやった。  追記。身体の相性も良かった。顔からのびーるアームが出るくらい恥ずかしかったが。 ○月θ日  そろそろ少し自分に素直になってみようと思う。 私は○○が好きだ・・・本当に好きだ。 思えば、道に倒れてる○○を見つけたのが私の人生の転機だったのかもしれない。 今まで恋だとか愛だとかそんなのは全く知らなかったが、これがその気持ちなんだろうと思っている。 ○○とずっと一緒じゃないとガマンできない。 もう○○には私だけを見ていて欲しいとすら思っている。 少しだけ素直に、というのは、この気持ちを○○に伝えられないから、という意味である。 私には日記に想いを吐き出すことしかできない。  天狗が私の家まで来て○○に取材をしている。何をそんなに聞くことがあるんだろうか? 特に意味が無い事でも記事にするのが彼女らの仕事なので特に突っ込む部分も無いが、 ずっと私の○○と話されるのも困ると想い、帰ってもらった。 何やらゴネていたが、思い切って○○に抱きついた私を見て、すぐ帰ったようだ。 たまには大胆な行動もいいかなと思った。  上で「私の○○」とさらりと書いてしまったが、なんだかいい響きなので気に入っている。 私の○○。口に出すと頬が緩む。 ○○から見た私はどうなってるんだろう。気になる。 ○月†日  今日も朝から○○とずっと遊んでいた。 話したり、出かけたり、一緒の布団で寝たりもしてみた。 ・・・日記に書くことも特にないが、しいて言うなら私は今幸せということである。 ○○にもきっと私の気持ちは伝わっていると思う。 そう思うとなんだか、温かかった。  今日も天狗が取材に来る。頻度が多いのではないか? 取材を受けると○○は私から離れる事になるので、それは嫌だったので今回も帰ってもらった。 と言っても弾幕による強行手段だが。 少し乱暴だったかとも思うが、二人の愛のためにはしょうがないということにしておく。 天狗が去り際に私の事を睨みつけた。その顔は、怒りもあったが、なんだかとてももの悲しそうだった。  私が今気になっていることは、河童と人間の間に子供はできるのか、ということである。 恥ずかしくて○○には聞けないが、重要な事だとは思う。 私としては、○○似の男の子が欲しいと思う。そのためには色々と頑張らないといけない。 ○月ξ日  朝から○○の様子がおかしい。 私より早く起きているかと思えば、私の事を妖怪でも見るような目つきで見ている。妖怪だけど。 会話もしてくれないどころか、近くに寄ろうともしてくれない。 何か悪いものでも食べたのだろうか?心配だ。 ○○はどこか私に怯えるように、私から距離を取っている。  変な○○は置いておいて、私は久々に機械弄りに精を出した。 ・・・なんだか上手く手が動かない。構造も頭に入ってこない。 お嫁さんになるには機械弄りより家事を勉強する方がいいと思ったので、深く考えないことにする。 掃除くらいはできるようにならないと・・・。  ○○は夜まで変だった。私の顔を見ようとしてくれない。 何かを必死に隠して、私に背を向け続けている。 夕食の「きゅうりときゅうりのサラダ」も食べてくれなかった。それどころか、返事もくれない。 新婚生活が今になって怖くなってしまったのだろうか? 妻としては不安なものである。  妻。すごくいい響きだ。嬉しくなる。 ○月ж日  ○○の様子はおかしいままだ。 私が話しかけると、ビクッと反応はするものの、言葉を返してはくれない。 不安だ。それと同時に悲しい。 ○○とわかりあえたと、繋がりあえたと思ったのに。  夜。○○の様子がおかしい理由がわかった。 ○○が大事に私から避けるようにして持っていたのは、天狗の新聞。 私は記事の内容を見て驚いた。 「特集!人肉を食べる妖怪」「外の世界から来た新たな被害者」 「谷河童のにとりが食用として人間を飼育している」 他にも妖怪の捕食の様子だの、人を食料とする妖怪だのの話を交えて、 私の事が書いてあった。○○を騙して、食らう存在として。 なんだこれは!デタラメにも程がある! 私が新聞を引き裂いた瞬間、窓の外で、あからさまに音を立てて何かが飛び去った。 天狗。ずっと見ていた・・・?  我慢がならなかった。すぐさま○○に騙されているということを言ったが、 ○○は信じてくれない、どころか、○○は声をあげて泣きながら命乞いをし始めた。 私がそんなことするわけない、といくら言っても○○は顔を上げない。 命だけは、だとか、ここから帰してくれ、だとか聞きたくない言葉ばかり言う。 酷い。○○が私を見てくれない。  なんでこんなことに。どうして?あの天狗のせいか。 そう思うと悔しくて涙が出てしまう。何故私の愛する人を、こんな形で奪った? ○○に泣きつこうとも、もう私の知っている○○は居ない。 私を怯え、いや、妖怪を怯え、それでいて無力で、 泣き叫ぶ事しかできないか弱い人間しか居ない。 私の○○は・・・壊れてしまった。  (ここから先は、文字が汚く書きなぐられていて読めない) ○月$日  (この日の日記は無い) ○月Я日  (この日の日記は無い) ○月а日  私は気づいてしまった。 ○○は壊れてしまった。それなら直せばいいんだ! 単純な事だった。壊れたものを直すなんて簡単な事だ。 私のリュックにはドライバーやら、ドリルやら、六角レンチやら。 工具の数だったら幻想郷では負けない自信がある。 外の世界の機械だってある程度は知っている。 私に直せないものなんてあっただろうか?いや、無い。  ○○は今、山のもっと上で天狗に保護されているらしい。 明日、光学迷彩を使って○○を奪還、そして修理をする。 修理が終われば、あの温かい笑顔の○○が戻ってくるんだ! そう思うと居てもたってもいられない、が安全性を考えて、決行は明日の夜とする。 ○○、待っててね! ○月З日  (この日の日記は無い) ○月Д日  結論から言うと、○○は直った。 それどころか、○○はさらに素敵になった。 いつでも私だけを見てくれる。 口から出る言葉だって、私を愛する言葉だけだ。 力強く私を抱きしめてくれる手だってそうだ。 ○○は私の理想の人間になった。 予定より少し修理に時間がかかったが、結果は満足の行くものだった。 これから、また○○と素晴らしい日々が待っているんだと思うと口から笑いが零れて止まらなくなる。  天狗が見ている。ずっと窓の外で見ている。 青ざめた顔をして見ている。この世のものでないものを見るかの様な顔で。 でも、いい。私は見せ付けてやる。 ○○と私の愛を見せ付けてやる。 ○○が天狗なんかじゃなく、私を選んだということを教えてやるのだ! さあ、○○ 今電源を入れてあげるからね。  (この日以降、日記は無い) にとりに狂おしいほど愛されたい・終